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臨床での活用漢方で治そう

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泌尿器症状の漢方治療

泌尿器症状の漢方治療

 泌尿器科領域における種々の症状のなかで、漢方治療が有用なのは尿路の不定愁訴だと思います。これらの症状には頻尿、尿漏れ、排尿痛、残尿感、下腹部痛、会陰部痛など多彩な症状があるにもかかわらず、いずれも器質的な障害を認めません。
 このようなとき、西洋医学では精神安定剤などが用いられますが、症状の改善が得られない場合は、漢方治療が適します。漢方医学では、これら尿路の不定愁訴を一種の機能障害と解釈し、肩こり・イライラ・冷え・便秘など一見関係なさそうな全身症状も考慮して、適応する漢方薬を選択します。実際には脾虚や腎虚、気血水のいずれの異常かを判断することになりますが、原因がひとつではないことが多く、単一処方で効果が得られない場合にはいくつかの処方を併用することになります。

  1. 1)頻尿
     『諸病源候論』に「腎虚すれば小便数」とあり、この小便数は頻尿に相当し、夜間頻尿や前立腺肥大症も含まれます。腎虚では補腎薬として八味地黄丸やこれに牛膝、車前子という生薬を加えて利尿作用を強化した牛車腎気丸が用いられます。これらの漢方薬は頻尿だけではなく排尿困難や排尿痛などの排尿状態を改善します。また、同時に腰痛を改善し正座が可能になった例もあります。
     前立腺肥大症がある場合には瘀血や血虚を伴いますので、桂枝茯苓丸四物湯の全量や半量を併用した方が良い場合があります。ただし、八味地黄丸や牛車腎気丸、四物湯には地黄が含まれているため、胃腸障害を来すことがあるので注意を要します。
  2. 2)尿失禁
     大黄・芒硝・甘草を含み、最も穏やかな作用を示す。

    • 腹圧性尿失禁
    30歳以上の女性にとくに多く、咳やくしゃみのときに下腹部に腹圧がかかるため尿が漏れる状態で、骨盤底筋群の脆弱化が原因といわれています。骨盤底筋群の脆弱化は筋トーヌスの低下で漢方では「中気下陥」といい、補中益気湯が適応します。 補中益気湯は内臓平滑筋や肛門括約筋の機能低下にも有効ですが、単独で改善が得られないときには補腎薬を併用します。

    • 切迫性尿失禁
    70代以降の高齢者に多く見られ、前触れもなく強い尿意とともに失禁する状態をいいます。脳出血などの脳疾患や脊髄疾患、前立腺肥大症などで排尿困難がある患者さんにみられる症状ですが、原因が不明の場合もあります。漢方では膀胱収縮を抑える目的で、猪苓湯合芍薬甘草湯や、腰の冷えの強い場合には苓姜朮甘湯を用います。前立腺肥大症などで下半身の衰えのあるような場合は、補腎薬を併用します。

  3. 3)反復性膀胱炎
     中年以降の女性に多く、冷えがあり免疫機能の低下している場合にみられます。この場合、冷え症の治療をしながら免疫力の向上を考え、下記の処方を併用します。
    1. • 冷え症……… 当帰四逆加呉茱萸生姜湯、温経湯、苓姜朮甘湯、真武湯

      • 抗生剤の不要な膀胱炎症状……… 猪苓湯、猪苓湯合四物湯、清心蓮子飲、五淋散

      • 免疫力の向上……… 補中益気湯

  4. 4)尿路結石
     芍薬甘草湯は尿管弛緩や拡張作用、猪苓湯は消炎、利尿作用、大建中湯は消化管だけではなく尿管にも作用し排石に効果を示します。猪苓湯単独もしくは芍薬甘草湯や大建中湯との併用がよく行われます。
  5. 5)血尿
     顕微鏡的血尿には猪苓湯や猪苓湯合四物湯が頻用されます。器質的異常のない肉眼的血尿は止血剤を服用しても効果が得られず治療に難渋しますが、止血効果のある芎帰膠艾湯が著効することがあります。