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解説コンテンツフレイルの基礎、はじめから、ていねいに

フレイルの基礎、はじめから、ていねいに
フレイルの基礎、はじめから、ていねいに

フレイルは、加齢に伴って筋力や心身の活力が低下することにより、生活機能障害や要介護状態に陥りやすくなる状態とされています。一方で可逆性という特徴もあり、適切な介入を行うことで、健常な状態に戻すことができるともいわれています。
本コンテンツではフレイルの基礎知識から関連する疾患まで、わかりやすく解説しています。ぜひ、先生方の診療の一助にお役立ていただければ幸いです。

フレイルのメカニズムを知る

フレイルとは

フレイルの発症メカニズムを知り
フレイルの病態を正しく捉えましょう

フレイルは、「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す“frailty”が語源となっており、2014年5月に日本老年医学会よりその訳語として提唱されました。
フレイルは身体的な脆弱性だけでなく、精神・心理的または社会的な脆弱性など多面的な問題を抱えていることが多く、機能障害や要介護状態、死亡などに陥りやすい状態を指します。
ただ、介護の危険度が高いものの、自立生活を送れる状態であり、適切な策を講じていくことで、再び健康を取り戻すことができる状態ともいえます。

参考:葛谷 雅文、日老医誌46:279-285、2009(一部改変)

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フレイルの原因

フレイルの発症メカニズムを知り
フレイルの病態を正しく捉えましょう

フレイルの原因には、加齢のほかに、生活習慣や身体的因子、心理的因子、環境因子、さらには高齢者によくみられる慢性疾患が挙げられます。
生活習慣では、食事内容の質の低下や運動不足が挙げられます。身体的因子としては全身の疼痛や難聴、ビタミンD不足、ポリファーマシーが、心理的因子には抑うつやアパシー(意欲低下)などが挙げられます。また、生活習慣病や心血管疾患もフレイルのリスク因子となります。
近年では配偶者のフレイルも環境因子として考えられています。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹: 荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018

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フレイルの種類

フレイルの発症メカニズムを知り
フレイルの病態を正しく捉えましょう

身体的フレイル
筋肉量(筋力)が低下するサルコペニアが中心的な病態となります。運動器の低下を指すロコモティブシンドロームも含まれます。

精神・心理的フレイル
抑うつやアパシー(意欲低下)、認知機能低下が顕著な状態を指します。身体的フレイルに認知機能障害(明らかな認知症は除外)が併存する状態を「認知的(コグニティブ)フレイル」と呼びます。

社会的フレイル
独居、外出頻度や知人との交流頻度の低下などで地域から孤立した状態を指します。

このほか、身体的フレイルを惹起する要因として口腔機能の低下に着目した「オーラルフレイル」があります。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018
フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016

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フレイルサイクル

フレイルの発症メカニズムを知り
フレイルの病態を正しく捉えましょう

加齢や疾病が原因で食欲不振になると食事の摂取量が減少し、慢性的な低栄養状態となります。栄養不足の状態が続き筋肉量や筋力が低下するとサルコペニアが発現し、そこを起点に足の筋肉量が低下して歩行速度が落ちたり、身体機能が低下し全体の活動量が減少します。
活動量が減るとエネルギー消費量も減少し、エネルギーが消費されなければ食欲がわかず、食事量も増えず、低栄養や体重減少が継続しサルコペニアがさらに進行します。この悪循環がフレイルサイクルです。介入の意義は、このフレイルサイクルを断ち切り、健康回復を目指すことにあります。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018
フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016

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フレイルへの対応を知る

フレイルの評価基準

フレイルの診断基準と
予防、治療について知りましょう

フレイルの診断基準は、国立長寿医療研究センターが2020年に改定した日本語版フレイル基準(J-CHS基準)があります。
表に示すように、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動を評価し、3つ以上該当する場合を「フレイル」、1~2つ該当する場合を「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれにも該当しない場合は「ロバスト(健常)」と判定します。
※CHS:Cardiovascular Health Study

参考:Satake S and Arai H . Geriatr Gerontol Int . 2020 Oct;20(10):992-993

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フレイルの予防

フレイルの診断基準と
予防、治療について知りましょう

栄養状態・口腔機能の改善
たんぱく質や微量栄養素(特にビタミンD)の不足がフレイルの危険因子となることから、これらの十分な摂取が求められます。また歯科検診により定期的にオーラルフレイルを予防していくことも大切です。

身体活動の増加
安全かつ容易に行える歩行のほか、有酸素運動だけでなく適度な筋力トレーニングを組み合わせた多因子運動の有用性が複数報告され推奨されています。

積極的な社会参加
家族や友人と接する機会を増やし、積極的に社会に参加して閉じこもりがちにならない生活を送ることが、有用と考えられています。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018

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フレイルへの介入

フレイルの診断基準と
予防、治療について知りましょう

フレイルへの介入は、まず、慢性疾患をコントロールします。栄養介入ではエネルギー量とたんぱく質の摂取量を増やし、栄養バランスを整えます。運動は筋力トレーニング持久力運動、ストレッチ、バランストレーニングなどが推奨されています。薬剤は副作用やポリファーマシーの改善を含め、見直しを行います。
適切な介入で健康な状態に戻す考え方は、漢方医学の「未病」と共通します。漢方医学でフレイルは、「虚証(生体内の必要な物質や生体機能が不足、低下した状態)」という概念に当たり、多くの生薬から成る漢方薬は有用な介入の選択肢になると期待されています。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018

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フレイルと関連性のある疾患を知る

フレイルとサルコペニア

フレイルと疾患の関連性を知りましょう

日本国内ではサルコペニアの診断にはAWGSが提唱している診断基準が推奨されています。
歩行速度や握力の低下がみられ、筋肉量の低下が認められるとサルコペニアと診断されます。これらの要素は身体的なフレイルの評価項目と重複し、サルコペニアはフレイルの中核的な病態と位置づけられます。また、サルコペニアと、それに伴う筋力の低下、低栄養、易疲労感などは悪循環し、様々な病態と負の連鎖を引き起こします。
そのため、フレイルとサルコペニアの併存は要介護状態への進行リスクを高めると考えられており、より積極的な介入が必要とされています。

参考:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」内「サルコペニアとは」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/sarcopenia/about.html
日本医事新報No.4928(2018年10月6日号)
フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016

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フレイルとCOPD

フレイルと疾患の関連性を知りましょう

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、呼吸障害にとどまらず慢性的な炎症性疾患として筋肉量や筋力、身体機能の低下が全身性に進行するとされています。
COPDでは活動が制限されることが多く、摂取エネルギー量(食事の摂取量)は減少しますが、呼吸障害に伴う安静時のエネルギー需要は増大し、エネルギー量にアンバランスが生じます。また身体活動量が減り、筋肉量や筋力が低下してサルコペニアを発症すると、さらに活動量が減る悪循環に陥ります。これらは全てフレイルの増悪因子となります。また全身性の炎症反応や酸化ストレスの増大もフレイルの進展に影響するといわれています。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018
フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016
COPD診療のエッセンス 2014年版 編集:日本COPD対策推進会議(日本医師会、日本呼吸器学会、結核予防会、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、GOLD日本委員会)

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フレイルと糖尿病

フレイルと疾患の関連性を知りましょう

糖尿病患者はフレイルになりやすく、フレイルを合併すると死亡リスクが高まることが報告されています。一方、フレイルがあると2型糖尿病の発症リスクが高まるとの報告もあり、この両者は相互に影響し合う可能性も示唆されています。
糖尿病におけるフレイル対策は主にレジスタンス運動を含む運動療法と食事療法、薬物療法があります。血糖値とフレイルの発症リスクにはU字型の関連性がみられ、高血糖だけでなく、身体機能の低下をもたらし、転倒や骨折、死亡のリスク因子となる低血糖もフレイルリスクを高めることが知られています。

参考:フレイル診療ガイド2018年版 編集主幹:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2018
フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016

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フレイルと認知症

フレイルと疾患の関連性を知りましょう

フレイルを有すると認知機能が低下しやすく、認知症を発症するリスクが高いことが報告されています。また、認知機能が低下すると筋力や身体活動量、ADL(日常生活動作)が低下し、フレイル状態を招きやすくなるため、これらは双方向の関係を示します。
フレイルと認知症を合併すると手段的ADLと基本的ADL、身体機能が低下しやすくなり、死亡リスクが上昇することが分かっています。
運動介入に、栄養介入や薬物療法、認知、社会的介入を組み合わせることで、フレイルを有する高齢者の認知機能に改善をもたらしたという報告もあり、その効果が期待されています。

参考:フレイルハンドブック ポケット版 編集:荒井秀典、ライフ・サイエンス、東京、2016
認知症疾患診療ガイドライン2017 監修:日本神経学会、編集:認知症疾患診療ガイドライン作成委員会、医学書院、東京、2017

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フレイルとがん

フレイルと疾患の関連性を知りましょう

がん患者は病状の進行に伴い、体重減少低栄養、消耗状態が進行し、多くが悪液質(カヘキシア)を呈します。複合的な代謝異常症候群である悪液質は、筋肉量の減少や筋力低下によるサルコペニアを根幹とする病態であり、フレイルはサルコペニアから悪液質まで幅広い病態を含む概念といえます。
がんによるカヘキシアは、意図しない体重減少、BMI値の変化、サルコペニアの有無、食欲不振、代謝異常が認められる場合とされており、難治性カヘキシアは全身状態が低下し、生存期間3ヵ月未満の末期の状態とされています。
がん患者ではフレイルを多角的に評価し、がん治療方針に反映させながら、栄養管理による悪液質への対応が求められます。

参考:網谷 真理恵 他 : Geriatric Medicine 2014; 52: 393-396(一部改変)

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