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臨床での活用漢方で治そう

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インフルエンザの漢方治療

インフルエンザ治療の現状

 インフルエンザ対策はワクチンによる予防が一番であり、今まで特効薬がないとされてきました。しかし、ノイラミニダーゼに対する阻害剤がウイルスの増幅を阻止することが証明されてからは、1998年にアマンタジンが認可され、その後、ザナミビル(リレンザ)やリン酸オセルタミビル(タミフル)が相次いで開発されました。とくに、ザナミビルやリン酸オセルタミビルは、A型とB型のインフルエンザウイルス両方に効果を示すため、よく使用されています。さらに30分以内にウイルスのタイプを確定できる診断キットとあわせ、発症後48時間以内の投与がしやすくなりました。
 このように、インフルエンザ感染症に対する有効な西洋医学療法が確立しつつある中、あえて漢方薬治療にこだわる必要はないと考えるのはもっともなことですが、未だにインフルエンザの流行を制御できていないのが現状です。そこでこれらの進歩を考慮しながらもなお、インフルエンザ治療における東洋医学的治療の有用性について考えてみます。

処方の実際

 インフルエンザに感染すると1~5日の潜伏期間の後、寒気がして、突然38~39度を超える高熱と、同時に頭痛や筋肉痛、関節痛がおこります。さらにかわいた咳、のどの痛み、鼻づまり、鼻水、目がひりひりするなどの種々の症状が出ます。西洋医学的治療ではウイルスの増殖阻止に抗ウイルス剤の服用と、湿気を保った部屋で暖かく安静にして、十分な睡眠や栄養と水分を補給しながら対処療法をすることになります。しかし、個体差(漢方での証)により転帰はさまざまです。
 東洋医学的治療では抗ウイルス薬と同時に、個体差に応じて漢方薬を選択することになります。たとえば、頭痛・発熱・寒気には葛根湯、鼻づまりには葛根湯加川芎辛夷、乾いた咳には麦門冬湯、神秘湯、のどの痛みには甘草湯、鼻水やくしゃみには小青竜湯などです。
 さらに最近の研究では葛根湯の抗ウイルス作用が解明されてきています。つまり、インフルエンザ感染による発熱は、インターフェロンやインターロイキン‐1α(IL-1α)が産生され、これが視床下部に働き、同部でのシクロオキシゲネースが活性化することでプロスタグランジンE2が産生され発熱しますが、葛根湯はこのIL-1αの産生を抑制することで解熱作用をあらわします。
 これからの医療は、東西医学の優劣を決めるのではなく両者の併用が必要と考えられます。インフルエンザ感染症においては抗ウイルス薬でウイルスの増殖を阻止し、体内に残存しているウイルスに対する生体防御反応(サイトカインストーム)には漢方薬を併用することになります。