陰陽理論については、後に紹介致しますが、すべての事象を陰と陽の相対立する二つに分けてとらえるもので、陰と陽のバランスのとれた状態が健康な状態と考えます。
これは現代医学の交感神経に対する副交感神経、アゴニストに対するアンタゴニストなどに通ずるものがありますが、陰陽のバランスが崩れた時が病気の状態であるとし、その歪みを修正し正常な状態に戻すことが治療そのものになります。つまり、足りないものは補い、行きすぎは是正し、有り余ったものは排し、冷えていれば温め、熱を持っていればそれを散じ、緩んだ場合には緊張を与え、緊張しすぎには弛緩させ、滞った場合には巡りを良くし…等々。常に身体全体のバランス状態を診て整えることを主眼とした医療といえるでしょう。
心身医学・心療内科の分野でも「心身一如」という言葉がありますが、漢方もまさにこの考え方が根底にあります。「こころ」と「からだ」のバランスは、先の陰陽理論に相当し、患者さんの「気分」で あるとか「気力」なども生体の諸機能に影響を与えるという考え方です。聴診器や血圧計もなかった時代、患者さんの状態を注意深く観察し、その人の性質(性格)や嗜好などまでにも時間をかけて多角的に問診することによって多くの情報を引き出し、バランスの崩れ具合を察知して、診断と治療にあたることを重要視しています。
漢方薬の原料は、一部動物・鉱物を含みますが、ほとんどが植物で、化学的合成成分は用いません。ところで自然の薬物を用いることは決して漢方だけの特徴ではありません。ヒポクラテスの流れを汲む西洋医学も自然の植物などを使い、そのことがジギトキシンやコカイン、モルヒネ、アトロピンなど、多数の生理活性物質の発見につながっています。しかし、いろいろな薬効を有する生薬を組合わせ、バランス原理に則った使い方をするのは漢方の特徴と言えるでしょう。
生薬の効用を活かしたものとして民間薬がありますが、民間薬は1種類の生薬を単純に用い、その起源も家伝的・伝承的で、製法・用法・用量には一定の理論や法則はなく経験的であります。
一方、漢方薬は一部の例外を除いて2種類以上の生薬が組合わされており、その組合わせ方や配合量は傷寒論や金匱要略をはじめとする原典の記載に基くもので、一定の理論・法則に則ったものであり、複合的にバランスをとったものと言えます。
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