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漢方基礎講座漢方の診断法

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漢方医学の概念

陰陽

陰月女暗静血消極裏寒虚
陽日男明動気積極表熱実

一見古めかしい印象を受けますが、陰気・陽気、陰イオン・陽イオン、陰極・陽極などという言葉は、現代科学の世界でも用いられています。古代中国人は、すべての事象を陰と陽の相対立する二つに分けて捉え、自然界の陰と陽の調和がとれていれば平和であり、心身の陰と陽のバランスが保たれていれば健康状態が良いと考えていました。逆に体の中で陰陽のバランスが崩れると病気になると考え、その治療は陰陽のバランスを取り戻すことに主眼をおきます。漢方医学がバランスの医学と呼ばれる所以です。
陽は……明るいもの、上にあるもの、上に昇るもの、発散するもの、温かいもの、動的なもの、積極的なもの⇒精神的なもの、機能的なもの、無形のものとされ、陰は……暗いもの、下にあるもの、下に降りるもの、収斂するもの、冷たいもの、静的なもの、消極的なもの⇒肉体的なもの、器質的なもの、有形のものとされています。

病因(内因・外因・病理的産物)

病因

風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火
邪

人体に疾病を発生させる原因は、内因、外因、病理的産物の三つに分けられるとしています。

  • 内因は、体質的素因と精神的素因とに分けられ、体質的素因は更に先天的体質(遺伝・胎児期の種々の障害)と後天的体質(成長・発育・老化などの過程にあらわれた異常)とに分けられます。
  • また、精神的素因は、精神的・情緒的変動(七情:怒・喜・思・憂・悲・恐・驚)が、あるレベルを超えた場合に、疾病の発生につながるとしています。
  • 外因は、自然素因と生活素因とに分けられ、自然素因とは、気候変化を六つに分け六気(風・寒・暑・湿・燥・火)、これが、人体に障害を与えるようになると六淫(風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火邪)としています。また、生活素因は、暴飲暴食、過労、過度の情欲などが疾病の発生につながるとしています。
  • 生活素因や後述の気・血・水が停滞することによって生じる病理的産物を内因・外因に属さない不内外因とする考えもあります。

五臓の概念(西洋医学とは異なる臓のとらえ方、肝・心・脾・肺・腎の働き)

五臓

五臓は、気・血・水(津液)の生成や代謝を行うところとされており、肝・心・脾・肺・腎に分けられています。

  • 肝の機能
    すべての臓腑の機能がスムースに行なわれるように調節するとともに、感情を調節するとされています。
    また、体への影響部位としては筋・目・爪にあらわれるとされています。
  • 心の機能
    血液を送り出すポンプ作用を有するとともに、精神、意識、思考活動を調整するとされています。
    また、体への影響部位としては舌・顔にあらわれるとされています。
  • 脾の機能
    消化吸収を行うとともに、血管壁の正常性を維持して血液が血管外に漏れ出るのを防ぐとされています。
    また、体への影響部位としては肌肉・口・唇にあらわれるとされています。
  • 肺の機能
    呼吸(皮膚・粘膜呼吸を含む)を行うとともに、気や津液を全身にめぐらせるとされています。
    また、体への影響部位としては鼻・皮(皮膚)・毛にあらわれるとされています。
  • 腎の機能
    成長・発育・生殖の中枢であると同時に、水分代謝を調節するとされています。
    また、体への影響部位としては骨・耳・陰部・髪にあらわれるとされています。

気・血・水(津液)


人体は陽気である気と陰液である血・水(津液)から成り立っていると言う考えです。

気とは、体内を流れるエネルギーとされ、人間が生命活動を営むための生理機能であり、 生命の根源とされています。気には、次の作用があります。

  • 推動(すいどう)作用:成長発育、血液循環、ホルモン分泌などの生命活動を推進する。
  • 防禦(ぼうぎょ)作用:病邪と闘争し、体内への侵入を防ぐ(免疫機能維持)。
  • 固摂(こせつ)作用:異常発汗や出血、失禁を抑制する(漏出・排泄過多の統制)。
  • 温煦(おんく)作用:体温の維持、熱の産生および組織器官を温める。
  • 気化(きか)作用:気・血・津液(水)の相互変化や代謝を行う(物質転化)。

血とは、気の作用により血脈中を絶えず循環している赤い有形の物質とされています (単に血液や赤血球を指すのではありません)。血には、次の作用があります。

  • 全身に栄養を運び潤す。
  • 精神活動を支える。

津液(水)とは、体内すべての生理的な水液の総称(涙液、消化液、唾液、汗、尿、関節液など)とされています。津液には、次の作用があります。

  • 血とともに脈管内を循環し、脈管外にも浸透して組織・器官・臓腑を潤す。

八綱分類

証


漢方医学がバランスの医学と言われることについては、漢方の特徴でも触れていますが、生体内の陰陽バランスが崩れることによって病気が発生すると考えます。漢方医学の診断と治療で重要とされるのは、そのバランスがどのように崩れているのかを把握することであり、そのアンバランスさをとらえて「証」の判定を行います。
「証」が決定されれば、どのようにしたら回復するのか、その為にどの方剤を患者に与えれば良いのかが決まってきます。

「証」については、病気の位置をあらわす「表証・裏証」、病気の性質をあらわす「熱証・寒証」、病気の勢いをあらわす「実証・虚証」というように陰陽分類がなされます。通常の診断は、「表証」か「裏証」か、次に「熱証」か「寒証」か、そして「実証」か「虚証」かの順に進められます。

この3項目について分類していくと、結局、「証」の組合わせとしては8つできます。つまり、「表熱実」・「表熱虚」・「表寒実」・「表寒虚」・「裏熱実」・「裏熱虚」・「裏寒実」・「裏寒虚」の8つです。これを八綱分類といいます。

注)本来、八綱とは、表・裏・寒・熱・虚・実・陰・陽の8つの綱領を指しますが、「陰証」「陽証」に
  ついては、証全体に通じる総括的な分類であり、「表証」「裏証」「寒証」「熱証」「虚証」「実証」
  の6つの証それぞれに陰か陽かがあてはまります。すなわち、表証、熱証、実証はいずれも陽証
  であり、裏証、寒証、虚証はすべて陰証になります。
  したがって、陽証と陰証の2つの証と、他の6つの証を同列に並べて八綱とするのは臨床実態に
  そぐわないと考えられることから、6つの証の組み合わせ(2の3乗=8)を八綱分類と呼んでいます